個々の大統領令の是非について敢えて触れることはしませんが、気になったのが“大統領令”なるものの法的地位であります。
これまでも、拙ブログで書評などを通じて取り上げてきたとおり、大統領制と議院内閣制を比較した場合、議院内閣制のほうが大統領制よりも権力集中的な制度であり、同じ大統領制を比較しても、日本の都道府県知事や市町村長の方が予算編成権や条例提案権を有している分、米国の大統領よりも権力集中的であると思っていたのですが(ご案内のとおり、米国の大統領には、議会への予算提案権、法案提出権は付与されておりません)、連日報道されている“大統領令”の法的位置付けをネットレベルで検索してみると、今までの私の見解は一概に正しくないのではないか…と思うようになりました。
ネットで調べた限りでは、大統領令は、@法律と同等の効力を有するものであって(必ずしも行政権の範疇に限定されているものでもないらしい(ここ重要!))、Aこれを覆すには、連邦議会が当該大統領令を無効にする旨の法律を成立させるか、連邦最高裁判所が違憲判決を出さなければならない、となっているようです。
でも、連邦最高裁判所の違憲判決はともかく、仮に連邦議会が対抗措置としての法律を成立させたとしても、当該法律に対して、大統領が拒否権を発動してしまえば、再議には3分の2の可決が必要となり、ハードルは一気に高くなるわけであります。このように考えると、大統領令は(連邦議会との二元代表制という点から考えると)非常に覆しにくい強力な権力行使装置であると言えるのではないでしょうか。
どころか、より権力集中的とされている議院内閣制であっても政府提出法案も国会の議決なしには法律として成立しないわけですし、大統領制の中でもより権力集中的とされている我が国の地方行政であっても地方議会の議決なしには提出した予算や条例は確定しないわけですから、連邦議会の議決を事実上必要としない(連邦議会が覆しえない)大統領令って、民主主義国家における権力行使装置としては最も強いものなのかもしれません…
尤も、政策の大半には予算の裏付けが必要ですし、基本的な法律制定権は依然として連邦議会に付与されているわけですので、もう少し中長期的に見なければ、ここ数週間のトランプ米国大統領が発する大統領令が本当に法的地位を有し続けるのかどうかを判断できないと思いますが…
しかし、権力分立を目指したはずの米国の民主主義制度に、こんな重大な矛盾(当初目指した目的に逆行する権力集中)を孕む制度が仕込まれていただなんて、実に不思議ですよね…